フィンランドの木
フィンランドの森と湖で育ったデザイン

Markku Kosonen
マルック・コソネン
2006年3月8日(水)〜 3月25日(土)
※好評につき、会期を一週間延長いたします(3月25日更新)。
AM11:00〜PM7:00 (最終日PM5:00終了)
期間中は日、月休廊いたします。

マルック・コソネンは、森と湖の国フィンランドで育った典型的なフィンランド人です。金髪で頑固そうな風貌はフィンランド人の根性「シス」を表します。
「木の精」との長年に渡る関わりは、温和で繊細で哲学的な彼の内面に、大きな影響を与えているようです。作品制作で扱う樹木は約30種類にものぼり、そのほとんどを身近な森から探し出し、フィンランド特有の木を使うことでデザインの発想が始まります。
フィンランド・デザインが世界に紹介される時、コソネンの作品がたびたび表紙写真を飾ります。雑誌「TIME」の表紙にも彼の猫柳のバスケットが選ばれました。また、天皇陛下へフィンランド大統領がお持ちしたのは、白樺の根っこを素材とした彼のオブジェです。これまで、日本のデザイン誌や、「ソトコト」、「セブンシーズ」などでも取り上げられてきましたが、今回はこのような彼の作品を実際にご覧いただけるよい機会だと思います。 (Sonny Nakai)


Message from Artist

森と湖の国フィンランドで育った私にとって、木は日常生活と密着していました。「木の精」との長年に渡る付き合いは、私自身の内面の精神に大きな影響を与え、森を愛する感情を育み、フィンランドの木を生かした芸術作品を制作することに集中させ続けてきました。フィンランドの森林・木材関連産業は数多くある樹木の中から、主に3種類だけを活用しています。しかしながら私は、見放された残りの約30種類の樹木に注目し、それらを素材とした創作活動を行っています。
このようにフィンランド産の木だけにしか興味を示さなかった私ですが、2004年、山口県萩商工会議所主催の「竹MEETSフィンランド展」に参画し、竹を素材とした作品にも挑戦しました。日本では、管理を放棄された竹が、その強い生命力により里山を破壊し、森林の生態系に影響を及ぼしつつあります。そこで、竹を有効に活用することで、森林保全を図るという活動に賛同したのがその理由です。この展覧会は他のフィンランドのデザイナーも数名参加し、2004年12月に東京、新宿パークタワーそして2005年8月にはフィンランドのヘルシンキ中心部にあるデザイン・フォーラムで開催され、竹が自生しないフィンランドのデザイナーの新鮮な視点による竹を使ったデザインの提案は高い評価を得ました。

私は、木を素材としてデザイン、創作するのみならず、木との長い関わりにより、木の魂を理解し、その可能性を多面的に、新鮮なビジョンにより、木の魅力として具現化することを信念として活動しています。そして現在に至るまで、フィンランドの森林、木材関連産業の企業や団体等との多くのプロジェクトに取り組んできました。私は自身で森を所有し、所有者の立場からも、森林保全や森林拡大について、国家レベルの対策会議に出席して大きな影響力を発揮しています。
私の目標は、現代的な観点で革新的な木の活用方法を導き出し、森林、木材関連産業を活性化することにあります。そして、伝統的な保守的思想を基本とはせず、新しい感覚や感性により、木の作品を創作し、そのことにより新しい伝統を生み、それを日々の暮らしの中で演出してもらうことにあります。伝統と文化を切り離すことはできません。新しさを伝統に注ぐことにより、伝統の文化的な価値を進化させることが大事であると私は考えています。
現在、地球環境のための素材の活用は重要なテーマとなっています。木の存在は、エコロジカルな人間社会の実現に対して大きな役割を担うと私は信じています。人間社会の運命は、森と共にあると考えるからです。
私の展覧会における訴求ポイントは、「デザインの創造性」です。テクノロジーは人間と木の関係に大きな影響を与えています。フィンランド人はハイテク技術とその技術から生まれる社会の繁栄を高く評価しています。技術者にとって木材加工工程において重要である木の性質、重量、硬度、粘度、湿度、コストダウンなどの質が大事な要素です。しかしながら、木の創作を愛する人達にとって大切なことは、木の美しさ、匂い、生きていること、暖かさ、温もり、楽しさ、エコロジーなどを表現することです。このことを理解できるのは、文化に興味を示す層であり、彼等は作品が量産製品に比べて芸術的な意味を持つことに価値を見出し、その価値を高く評価します。また、木の技術、工程に信頼を置きすぎると、木に対する想いが薄れ、木とのコミュニケーションを失い、木に対して愛情を抱かないものとなってしまいます。

今回の展覧会には、フィンランド人がこよなく愛する木、ビサ・コイブ(特殊な白樺)を素材として選んだ作品があります。英語ではカーリー・バーチと呼ばれる順調に成育しなかった白樺の根元を利用する、ユニークな形と繊細な肌触りが特徴の興味深い樹木です。ビサ・コイブは、材料として需要が多い高価な素材でもあります。これらの作品は、表面の美しく賑やかな模様を生かして、シンプルでがっしりした造形のデザインを具現化しています。
白樺の樹皮はトウヒと呼び、以前は日常生活用品によく使われた素材です。私はトウヒの伝統的な使い方に新しい感覚を吹きこみ、ユニークな芸術スタイルを構築しました。
同様に、ウィロー・バスケット(猫柳製の籠)もユニークな芸術スタイルの答えとしてのひとつの作品です。猫柳の素材に芸術性を施すことにより、その猫柳の価値は新しい評価が与えられることになります。
私の作品の総合的なテーマは「自然素材に感性を吹きこむ」ということにあります。

(マルック コソネン)
 訳:
井 生 文 隆 
ソニー中 井