新井九紀子 展 ーことばの肖像ー

Kukiko Arai Exhibition
2007年3月6日(火)〜 3月23日(金)
AM11:00〜PM7:00 (最終日PM5:00終了)期間中は日、月休廊いたします。

春のいそぎ 21.8×32cm  


奉天市紅梅町 50.2×68.5cm  


肖像のふしぎ

特定の人物の似姿を描いたものを肖像画と呼ぶのがふつうだが、新井九紀子さんの「ことばの肖像」は、選んだ主題の詩文を「画家」がどれほど自由に表現するかという試みに見る人を誘う。
伊東静雄、萩原朔太郎、マルグリット・デュラスその他の創造者たちが言葉のかたちに記したものを、新井さんはヴィジュアルなかたちに表現する。書に始まる筆というメディアで、新井さん自身の鋭ぎすまされた「ことば」感覚が選びとった珠玉のことばが紙面にたちあらわれていく。
1990年代からの作品の変容を作家自身のメモ ーここで私はナント誠実なとヒトリゴチター にたどると、かな書や漢字単語を表現することから文や文章に主題が広がる。2000年を境に抽象化への模索が始まっていく。抽象化するイメージ表現は、面構成(2003ー04)線構成(2005ー06)を重ねてきて、2007年春のこの個展では抽象と文字に大らかにとり組む姿勢を見せている。
1960年代後半から書を始めたという新井さんは30数年の修行の先に独自の地平をさぐりあてたのだろう。いま誕生しつつある平面世界にはその予感が満ちみちている。
そこで「肖像」にされることばのイメージは原作のことばに似てはいないだろう。
書や詩に詳しい人ほど困惑するかもしれないぐらい、新井さんがいま創っているものは独特である。そして彼女自身がそれをふしぎに思っている節があるのだ。すこし無意識の領域にふみ入ったような、オートマティズムのような、プリミティブの刺しゅうのような、バウハウスの画家のような、と思いめぐらすことも楽しい。

小池一子