MOON

Masaya Ito「屏風&下画」
2003年11月4日(火)〜11月21日(金)
AM11:00〜PM7:00 (最終日PM5:00終了)
期間中は日、月休廊いたします。
もう30年近くも前のことになるだろうか。ある人の招きで御殿場の別荘を訪ねたことがある。ほとんどの人が初対面だったのだが、実にさまざまな装いの男女が十数人思い思いにグラスを交わし、宵のうちから始まって深更に及んだ酒宴も、最後のシーンを迎えようとしていたときだった。
「黒い三角がそこにあるのです・・・私にはそれが見える・・・」ふいにのっそりと立ち上がって、誰に話しかけるでもなく宙空を睨み、尊師のように厳かに語りはじめた一人の男がいた。それが、若き日の伊藤方也さんとの出逢いであった。
当時の彼はまだ墨を使わず、リトグラフに表現の場を求め、小さなアトリエで大きな機械と悪戦苦闘していた。話の内容はそれ以上定かには憶えていない。が、その時忽然と脳裏に浮かび上がったあやしげな「黒い三角」はいまも事あるごとに私をおびやかす。
たまたま伊藤さんとはそれ以来深くお付き合いいただくことになり、幾つかの仕事でもご一緒する機会があった。和紙に墨を駆使する新しい境地に独特の作風を確立され、いまや不動の人気作家として雑誌に、装丁に、広告に大活躍されている氏を知る人は多いことだろう。
しかし私には判る。あの頃から伊藤さんの内面は、いびつな円や、黒い三角や、不規則な四辺形たちによって占拠されていたに違いなく、そのあやしげな、あるいは艶やかな形象たちは、30年にわたっておぼろげな月光の中に漂い続けていたのである。
西村嘉禮(佳也)